〜 死のふは一定
しのび草には何をしよぞ
一定かなりをこすよの 〜
歌い終えると、甚介は今まで見たことのない男の眼差しを受けた。
「よいか童行、其方の父の事は弾正忠家の失態である、故に我の罪である。その罪を許せ、許せぬと或るならば、今死して我を呪い、生きるので或るならば我を頼れ」
そう言って男は片袖の鈴を凛と鳴らし、一間を後にした。
甚介は腹の根を抉られ、それを眼前に突き出された気がした。それをまた呑み込むか?棄てるか?
十あまり一つの選択が、生まれて初めて使いでは無く、己が目的になった瞬間であった_
八右衛門は今更ながらに気がとがめてきた。あの寺跡に小僧一人で乗り込むのである。悄然とした顔で「怪しまれたら、物の怪の住処かどうかを確かめに参ったと申せ」などと、童の頓智のような知恵を授けてきたが、そんな童じみた事はもちろん言う気にはならなかった。
_八左右衛門は促すように聞き返す_。
「で、怪しまれなかっ・・・」
「なるほど然様か、然様だったか」
じっと甚介見てばかりいた将右衛門が、思いかけぬ間を入れると八右衛門も甚介も、何事かと将右衛門を刮目した。
「如何した?将右衛門」
すると将右衛門は呑み込み顔で八右衛門に目配せすると、堪えきれず呵々と笑い甚介に向き直って言った。
「いやいや、恐らく戻らぬぞ」
「其方・・・清洲の殿を偲んでおるのであろぅ?」
「・・・はい」
咄嗟にそう応えたが、甚介には"偲ぶ"の意が理解できなかった_
しかし、大人二人が覗き込むように自分を見て嘲り笑うものだから、次第に羞恥し赤面した。それをまた"然もありなん"と笑うものだから、甚介も益々顔を染めあげていった。
_正確に言えば、それは信長に対する男としての憧憬の念であったのだが、"春のめざめ"を迎えた十一の甚介には恋心と云った方がやはり正しかったかもしれなかった。
「子細は某が清須の殿に、しかと申し次ぐゆえ安心致せ」
将右衛門らに促されても甚介は暫く押し黙ったままだったが、菓子などを振る舞って童の如き扱いをしようとするものだから、却ってむきになり語りだした_
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