×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

2. 男の面

その途上_

甚介は興奮を抑えきれなくなっていた。いつもの足が、空に浮いた雲の様であり、いつもの頬は夕日の様に火々としていた。そして堪らずに口が訪ねた。

「清須の殿も御出でで?」
「御出だった」
「が、さきほど吉乃様と遠乗り・・これっ!人通りで然様なことを」
甚介も、はっと我に返る_

路傍の土が、雲行きに合うよう、草履の下を少し重くした

昨日も、甚介は同じように屋敷に招かれている。
 いつもの事ではあるが、屋敷は尾濃の物流を支える一大拠点として蔵も広間も、物資と人馬で溢れかえっている。そこに入りきれぬものは座敷を開け広げ、押し込むように詰められてゆく。人はその狭隘の中に躰を縮ませ休んでいる。そんな雑踏とした屋敷の中で、他所と遮蔽された一間に入ると、一応、同じ顔が待ちわびていた。川並衆の坪内将右衛門光景と、此の屋敷主の生駒八右衛門家長である。

_そして昨日はこれにもう一人、黒一色で染めあげた辻が花染の小袖を着込み、二人よりは幾分若い川並の者らしき男が一間の奥、つまり横座に見事な朱漆塗りの太刀拵えを腰に付けたまま眠っていた。屋敷には川並衆に限らず浪々の者らが多く寓居しているから、新参の者であろうか?八右衛門らが紹介するわけでもなく、ただただ背を向けているばかりだった_

「どうであった?」
にこりと笑みを覗かせ切り出した八右衛門に、甚介は少し間を置き続けた。

「武士が二人・・・」
「それと粗野な者らが十人ほどおりました・・・」
「やはり・・・」
八右衛門は首肯し、将右衛門を見やった。応えはそれで十分足りていたのである。が、将右衛門は猶も甚介を窺うように正視している。それもその筈なのである。十を越えたばかりの童子には度を超えた使いだったやもしれなかった。八右衛門は、己の思慮の浅さを恥じるように聞き質した。

「で、如何した」

また少しの間の後に甚介は

「はい・・・」
と応えたまま、その視線を奥においている。何時もの童子らしからぬ胆力がみえないのであった。何かあったとしか思えない影が差している_


−4−

ホームページ制作
出会い